企業が実践できるインフルエンザ対応マニュアル【医師監修】

1. インフルエンザとは?基本を押さえる
インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染して発症する急性呼吸器感染症です。
症状は「突然の高熱」「筋肉痛」「強い倦怠感」が特徴で、いわゆる“風邪”よりも全身への影響が大きいのが特徴です。
重症化しやすいのは高齢者、妊娠中の方、基礎疾患を持つ方、免疫力が低下している方などです。
一方で、健康な成人であっても職場での感染拡大を引き起こすと、事業の継続に深刻な影響を与える可能性があります。

🔹インフルエンザとかぜの違い(比較表)
| 項目 | インフルエンザ | かぜ(一般的な感冒) |
|---|---|---|
| 発症の仕方 | 急激(1日で高熱) | 徐々に出る |
| 発熱 | 38〜40℃と高い | 37℃前後 |
| 全身症状 | 強い(倦怠感・筋肉痛・関節痛) | 軽い |
| 主な原因ウイルス | インフルエンザウイルス | ライノ・コロナなど多種 |
| 合併症 | 肺炎、脳症など | まれ |
| 潜伏期間 | 約1〜3日 | 約2〜6日 |
感染経路の3パターン
- 飛沫感染:くしゃみや会話で飛び散るウイルスを吸い込む
- 接触感染:ドアノブ・スイッチなどを介して手から口・鼻へ
- 空気感染:乾燥した空気中に漂うウイルス粒子を吸い込む

2. なぜ職場での対策が重要なのか
企業内での感染は、1人の発症から一気に広がるケースがあります。
特にオフィス・工場・店舗など「同じ空間で長時間を過ごす環境」では、感染速度が速く、1週間で部署全体が欠勤になることもあります。
感染症法上、インフルエンザは「五類感染症」に分類されており、法的な出勤停止義務はありません。
しかし、労働契約法第5条(安全配慮義務)に基づき、企業には従業員の健康を守る責任があります。
感染が拡大して事業継続が困難になることを防ぐためにも、企業としての備えが求められます。
3. 日常からできる予防策
1 手洗い・咳エチケット・マスク
最も基本的で確実な予防は「手洗い」「うがい」「マスクの着用」です。
咳エチケットとして、以下の3点を社内で掲示物などを用いて周知しましょう。
- 咳やくしゃみの際はティッシュ・袖で口を覆う
- マスクは鼻とあごをしっかり覆う(不織布推奨)
- 使用後のマスク・ティッシュはすぐに捨てる
2 職場環境の整備(空調・換気・清掃)
湿度が40%を下回ると、ウイルスは空中で長く生存します。
加湿器を活用し、湿度50〜60%を目安に保つことが有効です。
また、ドアノブ・共用PC・スイッチなど、手が触れる場所を1日1回以上アルコール消毒するだけでも感染リスクを大幅に下げられます。
加湿器、空気洗浄機は季節ごとのリースでも活用することができます。
モノカリではお得にリース可能です。
3 最新情報の共有
流行期には、厚生労働省や自治体が感染状況を随時発表しています。
衛生委員会や産業医が中心となり、週1回程度の感染情報共有を行うと良いでしょう。
掲示板・社内SNSなどで簡易なグラフを共有するだけでも啓発効果があります。
4 予防接種の推奨と補助制度
予防接種は「感染そのものを防ぐ」というよりも、発症後の重症化を防ぐことに効果があります。
費用は自己負担となりますが、以下のような支援を設ける企業も増えています。
| 支援内容 | 効果 |
|---|---|
| 接種費用の半額補助 | 受診率の向上(約1.5倍) |
| 産業医による職場内接種 | 接種率80%超の事例も |
| 家族も対象に含める | 家庭内感染の抑制効果 |
4. 感染者が出たときの対応手順
1 出勤停止の判断基準
法的な出勤制限はありませんが、学校保健安全法に基づく「目安」を参考にすると合理的です。
発症後5日を経過し、かつ解熱後2日を経過するまで(幼児は3日)
この期間は感染力が残っている可能性が高いため、原則として出勤を控えさせましょう。
2 就業規則に明記すべきポイント
インフルエンザ罹患時の対応を明文化しておくと、トラブルを防げます。
産業医としては、次の4点を就業規則または社内マニュアルに記載しておくことを推奨します。
| 項目 | 内容例 |
|---|---|
| 罹患の判断方法 | 医師の診断書、または自己申告による届出 |
| 出勤停止期間 | 発症後5日・解熱後2日経過を目安 |
| 賃金の扱い | 有給消化・傷病手当金の案内を明示 |
| 復職条件 | 証明書提出は不要。本人の体調確認で可 |
3 休暇・手当金の取り扱い
🔸 有給休暇
本人が希望する場合に取得可能。会社側からの強制付与は不可。
🔸 傷病手当金
健康保険加入者が4日以上休業した場合に支給対象。
初日〜3日目は無給(待期期間)となり、4日目以降から支給。
🔸 休業手当
会社の判断で出勤停止を命じた場合は、平均賃金の6割以上を支給する義務が発生。
就業規則で「感染拡大防止のための措置」と明記しておくと混乱を防げます。
4 復職時の対応
医療機関で「治癒証明」や「陰性証明」を求める必要はありません。
医学的にも、陰性を完全に証明する方法はなく、不要な医療機関受診による再感染リスクを避けることが望ましいです。
復職時には、本人の体調・発熱状況・業務内容への影響を産業医や上司が確認し、段階的に復帰させましょう。
5. 体調不良を「申告しやすい」職場文化づくり
感染症対策で最も重要なのは「早めに申告・休む」文化です。
しかし現実には、「迷惑をかけたくない」「人手が足りない」と無理に出勤する従業員が多いのも事実です。
この“無理出社”を防ぐには、経営層が明確なメッセージを出すことが重要です。
「体調が悪いときは、まず申告・報告を」
「休むことが組織を守る行動である」
また、体調不良を自己申告できる簡易フォームを社内で用意するのも効果的です。
匿名でも「体調変化」「感染懸念」を報告できる仕組みを設けると、早期対応につながります。
🔹良い対応の流れ(例)
従業員:朝の検温で38.0℃ → 上司に報告
↓
上司:出勤停止と医療機関受診を指示
↓
人事:就業規則に基づき、有給または休業手当を案内
↓
復帰時:体調確認と感染拡大防止の説明
6. まとめ:流行期に備える企業の姿勢
インフルエンザは「毎年必ず訪れるリスク」です。
しかし、適切な備えをしておけば、事業への影響は最小限に抑えられます。
- 日常的な衛生習慣と職場環境整備
- 感染者発生時のルールを明文化
- 安心して休める企業文化の醸成
この3つが揃えば、インフルエンザだけでなく、新型感染症にも強い職場づくりが実現します。
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