ストレスチェックの集団分析とは? 精神科産業医が評価方法や結果の活用方法をわかりやすく解説

1. はじめに
労働安全衛生法により、常時50人以上の事業場では毎年1回のストレスチェックが義務付けられています。
その結果を“やりっぱなし”にするのではなく、職場環境改善につなげるカギになるのが「集団分析」です。
とはいえ 「活用方法がわからない」「どう改善策に落とし込むのかイメージできない」という声も少なくありません。
今回の記事では精神科産業医の視点から、基本的な概念から活用プロセスまでをできるだけ分かりやすくまとめます。
2. 集団分析ってそもそも何?
「集団分析」は、ストレスチェックでは個人結果とは別に、部署・職種・年代など共通点を持つグループ単位で平均値を出し、「組織の傾向」を可視化することができます。
個人では気づきにくい構造的な課題——たとえば特定部署の過重業務や支援不足——を発見しやすくなるため、厚労省は“努力義務”として実施を推奨しており、最新の調査では約7割の事業所が集団分析を実施し、その8割が結果を活用しているとの報告もあります。
※参考:厚生労働省「令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」
ポイント
- 集団は「10名以上」が基本ルール。10名未満だと個人特定リスクが生じるため要注意です。
- ストレスチェックの目的は一次予防(未然防止)。集団分析はその原因になりうる職場環境の分析を行います
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3. 結果の読み方 ―「仕事のストレス判定図」を攻略
集団分析を行う上での代表的なアウトプットが仕事のストレス判定図です。

ストレスチェックで算出された「仕事の量的負荷」、「仕事のコントロール」や
「上司の支援」、「同僚の支援」を表に表し、ストレス判定図を作成します。
そしてそのストレス判定図を元に
総合健康リスク (全国平均=100、120超で要注意)
が算出されます。
4. 活用プロセス:4つのステップ
作成したストレス判定図と各健康リスクの数値を元に職場へのフィードバックを行います。それぞれのステップは以下のとおりです。
STEP | やること | コツ |
1. 組織長への結果説明 | 判定図を示し、「どのような改善が必要か」を共有 | “支援”のスタンスで結果をわかりやすく説明 |
2. 現場ヒアリング | メンバーや管理職にインタビュー、原因を深掘り | 管理職だけでなく、一般の従業員にもヒアリングを行う |
3. 施策の設計 | 業務量調整、要員追加、研修、1on1導入など | 指標をKPI化し効果測定まで設計 |
4. フォローアップ | 次回チェックで指標を比較しPDCAサイクルを回す | 年1回ではなく四半期ごとの温度感調査も有効 |
5. 具体的な事例でイメージ
ケース:営業部A(従業員30名)
- 総合健康リスク=135、量的負担高、コントロール低
- 残業月45h、離職率12%
対策
- 見積業務を業務委託に外注し残業時間を10時間減少。
- 毎週のタスク調整ミーティングを導入し、従業員の業務全体を把握できるように改善。
- 上司‐部下1on1を開始し、現場の困りごとを可視化した。
結果(半年後)総合健康リスク118、離職率7%まで低下。
6. よくある質問Q&A
Q | A |
集団分析は義務? | 現在は努力義務。ただし厚労省は活用率60%超を目標に掲げています。(引用元:これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引き~) |
何人から可能? | 原則10人以上。10人未満は個人同定リスクが高く、本人同意が必須。 |
公開範囲は? | 事業者・関係管理職まで。個人が特定される形での社内公表はNG。 |
7. まとめ
集団分析は「やれば終わり」の帳票作業ではなく、データで職場を変えるスタートラインです。
判定図などのデータから人と組織の“温度”を感じ取り、改善のサイクルを回す。
そのプロセスこそがメンタルヘルス一次予防の本質です。
いわみ産業医事務所ではストレスチェックの集団分析結果を有効に活用する産業医業務を実践しています。
ストレスチェックを活かせていないとお悩みの事業所さまはご気軽にご相談ください!